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 概要:
へリウムは極低温下においても結晶化せず液体状態を保ち、その物性には量子力学な特徴が顕著に表れる。劇的な例は、系の冷却と共に超流動相と呼ばれる別の液相に転移することであり、通常の液体には見られない種々の特異な性質を示すことが知られている。この超流動媒体内での分子プロセスはどのようなものになるであろうか?近年の実験技術の進歩により、この問いに迫ることが可能になってきた[1]。液体ヘリウムには、ほとんど分子は溶解しないことが知られているが、ナノサイズのヘリウム液滴を用いることにより、ほぼ任意の分子をその内部あるいは表面に孤立化できるようになってきたのである。この液滴ヘリウムを用いた分光測定から、分子プロセスは媒体の量子性を反映して様々な“奇妙な”振る舞いを示すということが明らかになってきた。談話会では、演者が開発してきた経路積分ハイブリットモンテカルロ法を分子をドープしたヘリウムクラスターに適用した計算例を示し[2,3]、超流動媒体内での分子の回転ゆらぎの様相の一端を紹介する。また計算可能なクラスターサイズを拡大するために新規に開発している変分経路積分分子動力学法[4]についても解説する。

[1] J. P. Toennies and D. F. Vilesov, Annu. Rev. Phys. Chem. 49, 1 (1998), and references therein.
[2] S. Miura, J. Phys.: Condens. Matter 17, S3259 (2005).
[3] S. Miura, J. Chem. Phys. 126, 114308 (2007); ibid. 126, 114309 (2007).
[4] S. Miura, Chem. Phys. Lett. 482, 165 (2009); S. Miura, Comp. Phys. Commu. 182, 274-276 (2011).