研究概要


 化学現象を通して、物理の基本的な問題を扱う化学物理を研究している。 特に、時間スケ−ルで、1psから100ps(1ps=10の12乗分の1秒)、 空間スケ−ルで、1から100オームストロング(10の8乗分の1cm)ぐらいの 非平衡現象調べている。 このぐらいの時空スケールで、 液体の様な凝縮系の運動を記述する普遍的な方程式を探している。 その一つの候補として、動的密度汎関数法が考えられるが、 この動的密度汎関数法を様々な化学現象に応用し、その有用性を確認した。 また、その物理的な基礎付けも考察している。

  1. 溶媒和ダイナミックス
     液体の中に、その液体と別の分子を溶質として溶かし込んだ時の液体分子の動的な応答を溶媒和ダイナミックスという。具体的には、溶質分子に光をあて、その電荷の分布を急に変えると、液体分子は、その急な変化について来れずに、最初、エネルギー的に不安定な非平衡状態になる。しかし、時間が経つと、平衡状態に緩和する。この緩和をいう。実験的には、溶質の発する蛍光の時間変化を調べることにより、測定できる。溶媒和ダイナミックスは従来、線形応答の理論で調べられていたが、溶質が小さい時は、並進運動の非線形効果が強くなることを動的密度汎関数法により示した。また、混合液体の場合、種類の違う液体分子の交換過程が重要になるが、動的密度汎関数法により、この交換過程を詳しく調べた。

  2. 電子移動反応
     電子移動反応は、電子だけをやり取りする原子の移動を伴わない最も簡単な化学反応だが、酸化還元反応の素過程として広く自然界に見られる。とりわけ、光合成などの生体反応に重要な役割を果たしている。この電子移動反応が凝縮系の中で起こる時に、その凝縮系が及ぼす影響を記述する統計力学的な理論を確立した。また、水や蛋白質中で起こる時に、それらの量子効果を表す理論を開発し、水に応用して、量子モンテカルロ法と良い一致を得ている。