2003年と2004年に読んだ本


2003年 1月16日 大江健三郎 「僕が本当に分かった頃」
3月26日 大江健三郎 「新しい人目ざめよ」
作者らしい人物が主人公の小説としては成功した部類。 特に「怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって」が面白かった。

2004年 1月28日 大江健三郎 「宙返り」(講談社文庫)
のんびり読んでいたら、ほとんど10ヶ月かかってしまった。 新興宗教の内部を中心にした小説で面白かった。 それにしても、明治から順に読んで1999年まで来たのは、 感慨深い。

3月3日 九州大学文芸部 「月見町行」
九大の文芸部で、 1995年から200年までの文集に載った作品を集めた傑作集。 無料でもらったが、定価を付けても充分なものだった。 特に、寒竹泉美の「柔らかな白いもの」は、 売れっ子作家の小説といわれても、おかしくない。 私が以前住んでいた名古屋にはこんな凄い人はいなかったから、 九大おそるべし。 それにしても、すじといい、人物造形といい、素晴らしいと思う。 ただ、結末がもう一つ私には納得行かないが、 これはきっと続編があるのではないかと期待している。 その他で特筆すべきなのは、雨宮司の「魔女の長い夜」で、 これは、よくある「大人向けの童話」より抜きんでいて、 面白く読めた。

3月31日 九州大学文芸部 「2003年度秋文集」
本当はもっと早く読み終わったのだけれど、ここに書くのが遅れた。 いくつかある作品のうち最もここに書きたいのは、 更紗未々の「ごちそうさま」で、 2003年の芥川賞の受賞作品を思わせた。 芥川賞の方はまだ読んでいないが、 新聞に載っていた抜粋を読むと、「なるほど」と思わせる文体だ。 明治や大正の「文芸思潮」の時に比べ、 今は流行がないのが特徴と思っていたが、もしかしたら、 「蛇にピアス」や「ごちそうさま」のような文体が 今の「思潮」なのかも知れない。 また、この本を持ってきてくれた小林竜馬さんの作品「合理化」も よく練られていて面白かった。

九州大学文芸部 「2003年度新歓文集」
これも、31日よりは以前に読み終わっている。 この号で書いて置く必要があるのは、やっぱり矢野史子の 「もしも家の近所に隕石が落ちてきたらという話」でしょう。 方言で書くと失敗することが多いと思うが、この作品は、 方言(話し言葉?)を使ったということ以上に、 その独特のリズムと雰囲気が面白い。

4月5日 九州大学文芸部 「初夏文集」
これは、今日読み終わった。 この号では、とりあえず矢ノ須真人の 「サイクリカル」を挙げたい。 文章も筋の展開も設定や登場人物まで、 プロの仕事のようだ。 はやく続きが読みたい。 今気がついたが、これは2003年度の夏に発行されたものだとばかり 思っていたが、本のどこにも日付が入っていないので、 もっと昔のかもしれない。

9日 九州大学文芸部 2003年度「残夏文集」
更紗未々は、少々飽きた感じがしてきたが、 やはりこの号で1番だったと思う。 というか、うますぎる。 このままプロになっても売れるのではないかと思う。 少なくとも私は買います。

5月26日 安岡章太郎 ガラスの靴・悪い仲間
新潮の文庫で安岡章太郎は一度読んだらしいが、 すっかり忘れていた。 でも、今回は講談社なので、ダブりはない。 最近読んだ大江健三郎に比べてやはり古い感じがするが、 それでも、私が読んだ内で扱っている題材が新しい。 特に印象に残っているのが「宿題」で、つまり劣等生の話だ。 劣等生が小説になるというのは、小説が好きな人には、 意外な感じがするのだが、どうだろうか。 それにしても、加藤典洋という人が書いている文庫の解説が すごくつまらない。 この人に限らず、解説がおもしろくないのは、 文章を書くプロに頼まないからか。

10月25日 安岡章太郎 流離譚 上下
「りゅうりたん」と読むらしい。 ずっと「るりたん」と読んでいた。 ちょうど誕生日に読み終わった。 小説と言うよりも随筆に近いが、あるいは、 新しい形の歴史小説とも言える。 だいたい私は、随筆より小説の方が好きなのだが、 これは、おもしろく読めた。 随筆と言うと、思い付くままに書く感じがするが、 これは、構成がしっかりしていて、良く練ってある。 ノンフィクションと言うジャンルがあるが、 構成の仕方が、小説に近い。 しかし、語り手がいて、それが作者のようで、 語り手と共に資料を読み、歴史を再現していくようになっている。 ただ、引用が多すぎると思う。 原文のまま引用するので、古文が読めない。 引用なしで分かるように書けば、おもしろかったと思う。

12月上旬 安岡章太郎 果てもない道中記 上
これまで、上下巻に分かれているものは、 下巻まで読んでから書いていたが、それだとあまりに間が開くので、 上巻を読んだ時点で書こうと思う。 ただし、今回は読み終わった時が忙しくて書けなかくて、 正確な日付がわからない。 感想は、同じ様な形式としては、流離譚の方が面白い。 「大菩薩峠」を読んでみたい気になるが、 ものすごく長いらしいので、安岡章太郎のように入院しないと読めないだろう。


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